円城塔 『エピローグ』 (早川書房)

エピローグ

エピローグ

「権力と大艦巨砲主義と薄着の美女の相性がよいのは、つまり人間が馬鹿だからです」とアラクネは言う。「でもそれは人間の開、未開、野蛮、洗練、尊厳や誇りとは関係がなく、小さな頭蓋骨の中に各種の価値判断をぎゅう詰めにしなければならなかった結果です。弁当箱に米を詰め、煮しめを横に入れておいたところ、米に煮汁が染み込んでいた、みたいな話で、たまたま近所に積み込まれた大艦巨砲主義と薄着の美女に対する価値判断が互いに染み通っているだけのことにすぎません。でもその種の傾きを今のところはとりあえず、人類的嗜好とか、特性とか、人間らしさとか呼んでいるわけです。宇宙戦艦、なんて単語は出汁の染みた米のようなものです」

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OTC――オーバー・チューリング・クリーチャの侵攻によって,人類は退転を余儀なくされた.エージェントの朝戸連と,支援ロボットのアラクネは,OTC構成物質(スマート・マテリアル)を入手する任務を帯び,現実宇宙に向かう.一方,刑事のクラビトは複数の宇宙をまたがって起こった人類未到達殺人事件の捜査を行う.
この宇宙は物語によって記述される.そして宇宙は物語の数だけ存在する.みたいな? 真理や数学ではなく,ラブストーリーで駆動する宇宙とか,ローグライクゲームみたいなASCII宇宙だとか,円城塔のユーモア感覚はどうなってるんだ.取っ掛かりが非常に多いし,喩え話も多いので,話の輪郭はつかみやすいかな.と思っていたら,終盤にさしかかるあたりで取っ掛かりが多くなりすぎた.いや,それがむちゃくちゃ面白いんだけどね.マルチバースを舞台にしたバリバリの宇宙SFかもしれないのだけど,個人的にはユーモラスな文系SFの趣を強く感じたのでした.いやほんと,円城塔のユーモア感覚はどうなってるんだ.