チャールズ・ユウ/円城塔訳 『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

すなわち、原理的には万能タイムマシンを構成するにはこれしか要らない。(i)記録媒体の中で、前方と後方、二方向に動かすことのできる紙切れ。(ii)そいつが、叙述と、過去形の直接的な適用という二つの基本操作を果たせばよい。

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タイムマシンの修理工である「僕」は,60分のタイム・ループの中で生活する母とタイムマシンの開発をしていた失踪中の父を持つ.あるとき,タイムマシンから僕が降りてくるのを目撃し,とっさに僕を撃ってしまった僕は,タイムループに囚われてしまう.
未来の自分が書いた『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』を手に,父親との思い出を追いかける.アメリカの作家チャールズ・ユウのデビュー長篇である家族小説.時間SFでありループものだったりもする.ちなみに物語はモジュール化されていて構造はこんな感じで図示される(ほかにもいくつかの図がある).美しい日本語に変なユーモアを交えた円城塔の翻訳がこれ以上なくハマっている,というか黙って渡されたら円城塔の新作としか思わないんじゃないかしら.舞台となるSF的な宇宙からしてとことんとぼけた,変な話だけど,読み終わってみるとしんみりさせられてしまう.すごく良かったです.