金子薫 『鳥打ちも夜更けには』 (河出書房新社)

鳥打ちも夜更けには

鳥打ちも夜更けには

名前の効力とは侮り難いもので、自分は架空の港町の住民であると常日頃から考えているうちに、自身の人生までが絵空事に思えてくるらしく、架空の港町の住民はいつもどことなく上の空といった表情を浮かべている。

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十三世紀末の『見聞記』に地上の楽園と謳われた島にある,架空の港町.その観光資源である蝶を守るという役割を負い,三人の青年が,海鳥を毒矢で殺す仕事についていた.島の経済が陰っていくなか,それぞれの仕事をこなす三人だったが,鳥打ちのひとりである沖山は己の仕事の意義に疑問を感じ始めていた.
どことも知れない島の架空の港町を舞台にしたユーモラスで残酷で幻想的な物語.というか変な話.「架空の港町」とは「架空」の港町ではなく,あくまで「架空の港町」という固有名詞だと知るといい.
まったく鳥を殺すことができなくなってしまった天野,仕事として熱心に鳥を殺す保田,ふたりの間に立つ沖山.苦悩する三人と,それとは関係なしに,どこかとんちきな架空の港町の描写が良い.引用した部分にあるような,独特のふわふわした不安な感覚がずっと続く.最終的に残るのは,蝶の幼虫って美味しそうだな……みたいな気持ち.どっかしら変な幻想小説が読んでみたければ良いと思う.