アズミ 『給食争奪戦』 (電撃文庫)

給食争奪戦 (電撃文庫)

給食争奪戦 (電撃文庫)

僕はこうして戦利品を並べて、ぼんやりと眺めている時間が好きだった。何が面白いって、消しゴムには使っていた人の情報がたくさん詰まっているのだ。

まず使い方で持ち主の性格が分かる。几帳面だったり、乱暴だったり、飽きっぽかったり。種類からは好みが分かるし、だいたいの値段から家が裕福か貧乏かだって想像できる。

消しゴムは、クラスメイトの《分身》だといっても大袈裟じゃない。

年に一度のバレンタインデー.ひとつだけあまることが確定した給食のチョコレートケーキをめぐって,教室の内外で裏工作・脅迫・裏切り・暴力が繰り広げられる.表題作「給食争奪戦」は小学生版『喧嘩稼業』だと思うの.他の収録作品は,消しゴム収集癖のある小学生がクラスのいじめっ子を救う「消しゴムバトル」.小学生四人組がゲーム感覚で繰り返す万引きとその理由を描く「万引き競争」.無口でクールな転校生の事情「転校少女」.そして,それらの出来事から数年後,高校生になった彼らの学園祭を描く「学園祭を台無しにしたのは誰だ」

第20回電撃小説大賞・電撃文庫MAGAZINE賞を受賞した表題作に,連載分と書き下ろしを加えた連作短編集.小学生たちのそれなりにシビアな日々と,短編ごとに提示される日常の謎が連鎖して,最後には収まるべきところにきれいに収まる.タイトルほどは甘くはない.冗談抜きで,連作短編のお手本みたい一冊だったと思う.想像していた以上に楽しかったです.