瀬名秀明 『虹の天象儀』 (祥伝社文庫)

虹の天象儀 (祥伝社文庫)

虹の天象儀 (祥伝社文庫)

――いったい、私たちは、いつの夜空を見たいだろう。

織田は死ぬ前にもう一度、彼の「わが町」であった大阪の星空や朝焼けを見たいと思っただろうか。

2001年に閉館した,渋谷の天文博物館五島プラネタリウム.その閉館の翌日,27年にわたって投影機の技術係を務めてきた私の前に,ひとりの少年が現れる.少年の導きによって,戦中の東京にタイムスリップを果たした私は,そこで空襲で焼ける前の東日天文館,そして生きていた頃の織田作之助を追うことになる.

空襲で焼けたプラネタリウムとカールツァイス製投影機に伝えられた願いと,織田作之助の最後の言葉,「思いが残る」の意味を巡る時間の旅.実在した五島プラネタリウムから始まる,まさに閉館されたその年に出版された中篇小説.戦中,戦後の東京の風景と,織田作之助がたどることになる生涯がしっとりと描かれる.瀬名秀明らしい,美しいテキストに最初から最後まで惹かれ続ける.中編にするにはネタを詰め込みすぎている気がするし,終わりも少し唐突.いくらでもふくらませることができそうな話だけにちょっともったいない気がした.SFにする必要のない小説のようにも思えるけど,リライトはもう期待できないだろうな…….