つかいまこと 『棄種たちの冬』 (ハヤカワ文庫JA)

棄種たちの冬 (ハヤカワ文庫 JA ツ)

棄種たちの冬 (ハヤカワ文庫 JA ツ)

カニを捕まえたいのは、食べたいからだ。食べることで、生きられるから。

だとすると、自分たちは「生きたい」から「死ぬかもしれない」ことをすることになる。生きたいという気持ちが、危ないことをさせる。サエはいつもここでわからなくなる。

死ぬほど危ないことをしなければ生きられないのだとしたら、生きるというのは何なのだろうとサエは思う。恐かったり、痛かったり、寒かったり、お腹が空いていたり。そんなのを抱えて、自分たちはどこに行こうとしているのだろう。

氷河期の到来による滅亡から逃れるため,人類がデータ世界へと移住して長いときが経っていた遠い未来.しかし,棄てられた物理世界にも,棄種と呼ばれるわずかな人間が生き残っていた.サエとシロ,ショータの三人は,暴力が支配する物理世界で,死に怯えながらも力を合わせて生きてきた.

飢えと暴力に怯える物理世界の人間は「生」を渇望していた.データ化され,体験(コンテンツ)を生んでは消費するサイクルを長く続けるデータ世界の生命は「死」に憧れていた.生とは,死とは,という問いかけの物語.同じ場所にありながら,重なることのない対極的な物理世界とデータ世界の関係は,コスタ・デル・ヌメロとその外側というか.非常に静かに終わりに向かってゆくストーリーは,ある意味では物語未満の物語かもしれない.ありのままの世界を比較的シンプルに,それでいてエモーショナルに描いている.とても良いものだと思う.あと,データ世界でのセックス描写は一読の価値がある.バラードの『クラッシュ』を思い出した.