さがら総 『教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 8時間目』 (MF文庫J)

「……天神先生のお話は難解ですね。初期の作風に似ています。久しぶりに天出先生の処女作を読み返してみたくなりました」

かつて、星花が好きだと評した俺のデビュー作。

独りよがりな思いを詰めこんで、まるで売れなかったガラクタ。

あのときからずっと、俺は自分のことを語るのが苦手になってしまった。

ついに星花に秘密がバレてしまった天神。だがそんなことはお構いなしに、一年の集大成である中学受験の時期が迫っていた。そんな天神と三人の少女の、いつもどおりでいて、いつもと違う修羅場。それぞれの巣立ちの時が近づきつつあった。

「終わりについての、話をしよう」「――これは、子どもが大人になる物語」。ライトノベル作家兼塾講師と、三人の少女の物語、完結。才能とロリコンの物語と見せかけて、結局のところ徹頭徹尾の自分語りだったのではないかという気がする。作者の根本にあると言われる人間不信が、ひとの形を取った虚無として現れ、信頼できない語り手として語ってゆく、という。

「根本的に他人に興味がない」、「お前の世界には愛がない」とまで言われ、「可哀想なものを見る瞳」を向けられ、だがそれでいいのだと堂々と言ってのける。虚無というか、「自分」という虚ろの輪郭を描いてのけた作品だと感じた。「自分」を深堀りする小説はライトノベルだとかなり珍しいし、これだけのものを書き上げたのは流石だと思う。お疲れさまでした。