斜線堂有紀 『コールミー・バイ・ノーネーム』 (星海社FICTIONS)

「好きになってくれてありがとうな」

そういった琴葉の声が泣き出しそうだったことを、愛はいつまでも覚えている。

呪いの話はここで終わりにして欲しかった。けれど、それはそれとして人生は続いていく。

大学生の世次愛は、夜のゴミ捨て場で捨てられていた容貌の美しい女を拾う。本名を名乗らない女、古橋琴葉に惹きつけられる愛だが、友達になることは頑なに拒否される。そんな愛に琴葉は、自分の本名を当てる賭けを持ちかける。

過去に秘密を持つ女ふたりが友達になるまでの、短い同居生活を描いてゆく「名前当て」ミステリ。仮初の恋人として付き合う中で、聖人と変人の人物像が、過去がページを繰るごとに解像度を上げてゆく。謎解きとしてのミステリと、キャラクターの描写がかっちり噛み合った感がある。作者の作品では最も穏当なミステリかもしれないと思いつつ、こんなのも書けるのかと驚いた。良かったです。