三萩せんや 『七夕の夜におかえり』 (河出書房新社)

「なるほど。私たち、何かを諦めてきたわけね」

ここまでの人生、順風満帆とはいかなかった。子どもの頃はなんだって叶う気がしていたのに。気づけば自分たちはいろいろなものを手放して前に進んできたらしい。

大学生の小川伊織は、三年に一度だけ開催される七夕の“大祭”を機に、二年半ぶりに地元に帰ってきた。兄のように慕っていた幼なじみの寺本聡士が死んでから三年。聡士の遺品であるスマートフォンを手にした伊織は、「神童」と呼ばれた聡士がやろうとしていたことと、聡士が死んだ本当の理由を知ることになる。

『時守たちのラストダンス』と同時発売。「時守~」と固有名詞の一部を被らせているけど、ほぼオリジナルの小説と言っていいかな。並行世界、アカシックレコードといった『ポッピンQ』のアイデアを、仏教的世界観に混淆させ、サイバーパンク的ガジェットを絡めることで、この世とあの世を接続する。アイデアの接続はとても良いと思う。避けようのなかった死の運命が明かされ、自由意志とは……、みたいな気持ちになったり、変わったあとの世界がそれ? ってなったりと、ちょいちょいと気になる突っ込みどころはあったかな。「時守~」と同様、二時間アニメのようにまとまったSF小説だと思います。



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