斜線堂有紀 『楽園とは探偵の不在なり』 (早川書房)

楽園とは探偵の不在なり

楽園とは探偵の不在なり

顔の削れた天使たちが灰色の空を飛んでいく。

天使は雨が降る前の空を飛ぶのが好きらしく、天使が二、三体も群れて意気揚々と飛んでいくのを見た後は必ずと言っていいほど雨が降った。

この世に天使たちが降臨してから5年。一人を殺しても何も起こらないが、二人を殺した者がもれなく地獄へ堕ちる。なぜそうなるのかは誰にもわからないが、世界は大きく変わり、探偵の青岸焦の人生も大きく変わっていた。

天使たちが群がる孤島の館で起こった、起こらないはずの連続殺人。二人を殺せば地獄に堕ちる世界で、いかに連続殺人は起こりうるのか。テッド・チャン「地獄とは神の不在なり」に影響を受けたという変わり果てた世界にて、探偵のアイデンティティについて、神について、正義について、悪について考える。地獄の実在と、確実に堕ちる理由がはっきりしていることによって、ガラッと変わった社会の倫理。それに慣れきって生きている人々と、昔の仲間たちのことを引きずり続ける探偵の対比が哀しくも興味深い。孤島の館で連続殺人と、いかにもな新本格ミステリでありながら、人心と世界の両方に一歩踏み込んだ、非常にエモーショナルな作品になっている。とても良いものでした。



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