菊石まれほ 『ユア・フォルマIII 電策官エチカと群衆の見た夢』 (電撃文庫)

――大丈夫。

どんな痛みでも、いつかは消える。

たとえ、消えて欲しくなくても。

流れ落ちる季節が全てを平らに消えていくことを、母を失ったビガはよく知っている――だから身を任せればいい。トナカイたちが長い冬も短い夏も、淡々と過ごしていくように。

でなければきっと、複雑すぎる世界のどこかで、自分を見失ってしまうから。

ハロルドを守るため、重大な秘密を抱えることになったまま、捜査に従事するエチカ。ある日、国際刑事警察機構(インターポール)電子犯罪捜査局本部から、捜査情報が流出したとのメッセージが届く。情報を流出させたのは〈E〉を名乗る匿名ユーザー。一年半前から巨大匿名掲示板で様々な「予言」でユーザーたちを扇動し、信奉者を集めつつあった。時を同じくして、エチカは電策能力を突然失ってしまう。

パートナーを解消され、別々に捜査にあたることになったエチカとハロルド。サンクトペテルブルク、リヨン、オスロをまたぎ、それぞれに〈E〉を追う中で、テクノロジーが社会とヒトにもたらしたものを目の当たりにする。シリーズ三巻は、あとがきによればテクノロジーに祝福「されない」側に生まれた人間たちの物語。

ユア・フォルマユーザーを「糸人間」と呼ぶ機械否定派(ラッダイト)はテクノロジーによってメインストリームから分断され、現状の不遇を憎み、ネットワーク上に現れた匿名の陰謀論者に扇動され、実際に行動を起こす。ここ2年の世界情勢が如実に反映された物語になっている。エチカとハロルドの間にある小さくて複雑な物語と、世界中を巻き込み現実側に軸脚を置いたSF的な物語がふたつの渦のよう。独特の間が心地よい文章は変わらず非常に読みやすく、複雑なストーリーも不思議なくらい飲み込める。本当に良いシリーズだと思います。



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