アンディ・ウィアー/小野田和子訳 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』 (早川書房)

自分にたずねてみる――LAからニューヨークまでの距離は? 本能的に出てきた答えは――三〇〇〇マイル。カナダ人ならキロメートルを使うはずだ。したがってぼくはイギリス人かアメリカ人。あるいはリベリア出身か。

リベリアでもヤード・ポンド法が使われていることは知っているのに、自分の名前がわからない。それが腹立たしい。

目が覚めると、誰もいない空間にいた。全身にカテーテルが注入され、言葉はおぼつかず、記憶はなく自分の名前すら思い出せない。ここはどこなのか、自分は誰なのか。孤独な男はとあるプロジェクトの途上にあった。

『火星の人』のアンディ・ウィアー最新作。見える範囲のSF関係者全員が、ネタバレを避けつつ絶賛していたので手に取ってみたら、たしかにメチャクチャ面白かった。宇宙SFの楽しさだったり、探求することの面白さだったりをぎゅっと詰め込んだ、良い意味で学習マンガのようなハードSFだと思う。ユーモラスな科学ネタや、色んなジャンルのサブカル・オタクネタもまた楽しい(パワーグローブに訳注がつくとは)。どこからどこまでがネタバレと言えるのかよくわかっていないんだけど、とりあえずネタバレを踏む前に読んでみるといい。