立川浦々 『公務員、中田忍の悪徳6』 (ガガガ文庫)

「“仕事”はどんな無価値な人間性に対しても、一般化された対価としての賃金と、一定の社会的繋がりを与えてくれる。言い換えれば、仕事にさえ就いていれば社会から零れ落ちることもなく、俺のような人間でもお前を保護できるだけの立場と財力を得られた。仕事に殺されるつもりはないが、俺は俺の信義において、仕事を軽んじるつもりはない」

いまだ正体不明の力によって戸籍を手に入れた異世界エルフ、河合アリエル。運転免許を手に入れ、パートタイムで働き、忍との同居を続けつつ現代社会への順応は順調に進んでいた。並行して「耳神様伝説」の足跡を追う忍たちは、第二次大戦前には実在したと考えられる耳神様の情報を求め、夏季休暇期間を利用して広島県の大久野島を尋ねる。

異世界エルフの来歴を探し続ける忍たちは、人類の犯した愚かな悪徳と真実を、その優しく純粋でかわいい異世界エルフに突きつける。福祉生活課係長と異世界エルフの現代ファンタジー、第六巻。根本的に愚かなヒトが、暴力の時代を経て、「福祉」をどのように生み出したのか。耳神様信仰の痕跡はなぜ忘れ去られたのか。あまり類を見ない「埃魔法」が第二次大戦の日本軍の話につながるのは、一巻の時点から考えていたんだろうか。

己の信義のみで生きてきた忍の、大人としての限界を垣間見せるのも良い。同時発売の同人誌『非正規公務員、丸山千尋の悪徳』とぜひセットで読んでほしい。「丸山千尋」ではあとがきで「商業作品から削ぎ落とされた、不要なリアティの残りカス」と書いていたけど、これはこれでタメを張るくらい十分に重いのよ。「この世界は天国ではなくて、どちらかといえば地獄に近い」。この言葉の重みに堪えられるだけの物語の積み重ねがあったのだと思う。テーマの感じられる、本当に良い現代ファンタジーだと思います。



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