紙城境介 『転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?』 (MF文庫J)

俺は、捕まったのだ。あの五年間で、完全に、この悪魔に。血の匂いのする闇の中で、何度も何度も刻みつけられた傷が、魂を、心を、底の底まで冒し尽くしていて……。

逃げられないんだ。

転生ごときじゃ、逃げられないんだ。

高校を卒業してから5年。妹に監禁されていた俺は、やっとの思いで逃走を果たした矢先、トラックに轢かれて異世界へと転生した。新しい世界で貴族の子に転生した俺は、幸せに満ちた新しい人生を歩みはじめる。同じようにどこかに転生した妹に出会わぬよう、周りのひとたちの幸せを守れるよう。

俺を監禁し、両親を殺し、周囲の人間まで殺した。悪魔のような妹が、この異世界のどこかにいる。小説家になろうで展開された異世界転生小説の書籍化。作者の著作がここ数年ラブコメばかりだったので、今回もラブコメかな、と思って手に取ったら完全に裏切られたでござる。ストロングスタイルのヤンデレ妹を久しぶりに見た気がする。コルク抜き……。

記憶をそのまま持った新生児として生まれ、「転生」によって誰かの居場所を奪ってしまったのではないかとの罪悪感を抱きながら、様々なひとやエルフに出会い、七歳にして性の目覚めを自覚する。この作者らしいまっとうな成長やふんわりした幸せと、悪魔()と暴力の影がぷんぷん漂い、何かが起こるんじゃないか、あっさり破滅するんじゃないかとの紙一重を、ビクビクしながら読みすすめることになる。角川ホラー文庫みがあって楽しい。それにしても最近のMF文庫Jはいろんな方向性があって良い。大いに続きを期待しております。



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