愕然とした。それ以上頭に文字が入ってこなかった。
一瞬後には寒気がしてぶるりと身震いした。
「俺の行動が、本に記述されている……?」
計助が冷や汗を掻く一方、機械腕は淡々と可動し続けていまも様子を綴っている。
8月7日、名古屋。大須夏祭りの会場で銃撃事件が発生し、ひとりの少女が撃ち殺される。その悲劇がループの始まりだった。繰り返す8月7日。一回のループで行動できるのは、名古屋上空に浮く機械仕掛けの神が記述する30ページ分のみ。
少女の命を救い、一切の悲しみのない世界を実現するため、8月7日の悲劇を回避する。それには、上空に浮かぶ機械造形がすべてを詳述する名古屋で、30ページ以内に解答を出す必要がある。「30ページ」という明確でメタで物理的な制約を、ある意味非常に都合よく使って成立させたループもの。倉阪鬼一郎的物理トリックとでもいうべき仕掛けと、せめてこの30ページだけは理想的な世界を、というセカイ系的物語の食い合わせは不思議な感覚だった。
しかしこの仕掛け、物理的なページ数が重要な意味を持つだけに、電子書籍では成立しないとは言わないまでも、紙とはまったく違う読書体験になるなんじゃないかとも思える。アイデア一発勝負のようでいて、かなり大胆な小説なのではないかと思っております。