かつび圭尚 『大っっっっっっっっっっ嫌いなアイツとテレパシーでつながったら!?』 (MF文庫J)

ああ――僕は遅れて気付く。どうしてこんな考えが浮かんだのか。

夢なんてなくても生きていける。皐月はそう言ったけど、僕は違った。

夢がなきゃ、生きてこられなかった。

経済特区、東京都白銅区。地上900メートルの赤坂タワーで暮らす赤坂彼方と、底辺の奨学生有栖川譲は、日々いがみ合っていた。対照的な境遇のふたりだったが、実は6年前から意図せぬテレパシーでつながった「不正能力者(ジュリエット)」だった。もしもふたりの秘密が露見したら、国中から追われることになってしまう。

経済的特区とそれ以外に区分される超格差社会。流出した「赤坂文書」から誕生した「不正能力者社会病理仮説(ジュリエット・シンドローム)」と呼ばれる陰謀論が社会を揺らしつつある中、巻き込まれようとしていたふたりは秘密を抱え街から逃亡する。旧家と血の没落と勃興、身分違いの恋といったあたり、「ロミオとジュリエット」もモチーフなのね。粗いところも多いと思うのだけど、テレパスと未来視とタイムリープを組み合わせたストーリーの組み立ては見事だった。

逃げ出したふたりが見つけた「本当に欲しかったもの」とは。「青春×SF×逃避行アクション」のコピーは伊達ではない。かっちりした芯のある現代ディストピアSFであり、なおかつきちんと現代青春小説でした。続きも楽しみです。