紙城境介 『継母の連れ子が元カノだった11 どうせあなたはわからない』 (スニーカー文庫)

「それでも、言わないよりはマシなの。心を伝えるには言葉はあまりに不便だけど……それでも言葉を使うことしか、私にはできないから」

感じることができなければ、語るしかない。

情緒的な行間が少しもない、直接的で野暮で軽々しい言葉だって――何も伝わらないよりは、ずっとマシだから。

水斗と結女が元サヤに戻って間もないころ。水斗は学校一の男嫌い、明日葉院蘭から告白される。違和感バリバリの告白の意味もわからないまま、すぐにやってきた沖縄修学旅行。学校には隠したまま恋人になった水斗と結女、真意の分からない明日葉院の告白、その裏に飛び交う様々な感情。いくつもの謎が隠れた沖縄の二泊三日が始まる。

真意の分からない告白、秘密の逢瀬を覗いた謎の覗き魔、修学旅行のしおり盗難事件。平穏なイチャイチャを送るため、元サヤに戻ったふたりは沖縄で推理をする。ラブコメにおけるひとつのゴールを迎え、ある意味では第二幕になるのかな。明日葉院という非の打ち所がない優等生が抱えた、未消化で生の感情をそのままお出しされたような感慨があった。それぞれの感情を安直にまとめたりレッテルを貼ったりしない、それでいて変に力が入らない語り口が本当に良い。恋愛程度で幸せになれるはずがないという言葉を前向きな文脈で語ったり、同世代でも多様な人間に対する解像度が、なんというか本当に良かった。