二月公 『声優ラジオのウラオモテ #09 夕陽とやすみは楽しみたい?』 (電撃文庫)

暗い空を眺めながら、千佳はぽつりと呟いた。

「わたしはきっと、普通の人が思い描くような青春は送ってこなかった。だから気持ちがわからなかったけど。でも、わたしの青春は別の場所にあるから」

あぁ、とため息が漏れてしまう。

それはこの学校で唯一、由美子だけが共感できる感情だった。

ライブは大成功に終わったものの、オーディションには受からず、学校の成績も急降下。いろいろな意味でまずい状況になった由美子は、仕事がないことを不幸中の幸いにしばらく受験勉強に専念することにする。文化祭が近づきつつある季節。文化祭の準備に、学校生活にと、しばしの「青春」を送ることになった由美子だった。

不安定で苦しい声優人生、仲間たちと楽しむ学生生活。由美子はどちらでも好きな方を選ぶことができる、人生の岐路にいた。女子高生声優の青春の在り処を改めて問いかけた第九巻。三者面談に文化祭にと、声優業を続けることの辛さと苦しさを、これ以上ないベストのタイミングで描き出していたと思う。文化祭のクライマックスやそこに至る過程も、無理を最小限に、最高の盛り上げだった。見事としか言いようがない。完全に安心して読める。良かったです。