悠木りん 『星美くんのプロデュースvol.3 女装男子でも可愛くなっていいですか?』 (ガガガ文庫)

目を閉じた僕の顔の上、スポンジが柔らかく肌を叩き、ブラシが頬を撫でる。ビューラーが睫毛を挟む度にカシャカシャと、小気味のいい音が瞼の上で踊る。目の周りをアイライナーの細い筆先が縁取り、優しい指先がキラキラ煌めくアイシャドウをまぶしていく。

繊細で、けれど力強い、カラフルでポップな最強に可愛い魔法。

夏休み明けにやってきた転校生、未羽美憂。自分の「可愛い」を捨て、星美の「可愛い」を否定した彼女は、星美の幼馴染であり、トラウマでもあった。ある日、女装して出かけていた星美は街なかで美憂と出会う。正体を隠したまま美憂に接する星美だったが、ついに女装がバレてしまう。

自称最強に可愛い女装男子の物語、最終巻。星美くんが女装をするようになったきっかけ、隠すようになったこと、「いつか可愛いが似合わなくなる時がくる」という迷い、すべてが明らかになってゆく。誰かの「好き」や「嫌い」が、大事な誰かを傷つけることもある。それでも、誰でも「好きに」「可愛く」なっていい。「可愛い」という言葉は呪いにも祝福にも、許しにもなる。「可愛くある」ことに、真剣に向き合った物語だったと思います。女装男子だからこそできた独特の砕けた空気やテキストも多々あり、三巻で終わってしまったのが本当に残念。今からでもいいから、少しでも多く読まれてほしいな……