春海水亭 『致死率十割怪談』 (角川書店)

「この村な、今の時期は尺八様っちゅう、淫乱ド変態妖怪が出るから気ィつけぇよ」

俺は、祖父ちゃんの庭で最悪の話を聞かされた。

「淫乱ド変態妖怪の出現情報って、親父の実家で聞きたくなかった話のナンバーワンだぜ、祖父ちゃん」

「尺八吹くみてぇに、男根しゃぶりあげて死ぬまで生を啜り上げる妖怪じゃあ。ドスケベぇな顔をしとるからすんぎにわかる。大きさも運動能力も羆みてぇだが、人間は恐れねぇし、銃も効かねぇ」

「親父の実家で聞きたくなかった話のナンバーワン、いきなり更新されたぜ、祖父ちゃん。会ったら死ぬじゃん」

はてなインターネット文学賞カクヨム賞受賞作の「尺八様」、カクヨム「ご当地怪談」読者人気賞「キリコを持って墓参りに」、ほかを収録したホラー短編集。タイトルだけでわかるかもしれないけど、良い意味でも悪い意味でも作品の振り幅がくそでかい。その副作用というか、ちゃんと一話を読み切るまで油断できない作品集になっていて良かった。

一番怖いのは妖怪じゃなくて人間、のおそらく史上最低の変奏曲「尺八様」。最後まで読んで意味がわかると物悲しくなる「身長が八尺ぐらいある幽霊が俺にビンタしてきて辛い!」。どことなく筒井康隆っぽさを感じた「書籍化必勝法」が好み。冒頭の「八尺様がくねくねをヌンチャク代わりにして襲ってきたぞ!」のノリに騙されず、最後まで読んでみるといい。