落葉沙夢 『―異能―』 (MF文庫J)

―異能― (MF文庫J)

―異能― (MF文庫J)

  • 作者:落葉沙夢
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: 文庫

「君は……すまない、覚えていないのだが、誰だったかな?」

「こんな場面で登場するのはいつだって主人公に決まっているだろ」

凡庸な自分を受け入れつつ生きてきた平凡な高校生,大迫祐樹.彼の前にある日見知らぬ少年が現れ,「異能」を持つ者たちのバトルロイヤルへと誘ってくる.「特別な存在」になりたいと望む祐樹はバトルロイヤルへの参加を決意する.

それぞれの願いをかけて,十三人の異能者によるバトルロイヤルが始まる.第15回MF文庫Jライトノベル新人賞審査員特別賞受賞の「事件的怪作」.異能力者のバトルロイヤルものとして読むと普通,というかかなり硬い印象なんだけど,実はミステリ的な仕掛けが隠されていた,という.語り手(異能者)が次々と死んでは移り替わっていくこと,そして「主人公」というキーワード,それぞれに意味を持たせている.読みやすい話だとは正直思わないのだけど,意欲的な試みは買える.いかにも新人賞らしい作品だと思いました.

真野真央 『七人の魔女と灰被りの空の御剣者』 (MF文庫J)

七人の魔女と灰被りの空の御剣者<レガトゥス> (MF文庫J)

七人の魔女と灰被りの空の御剣者<レガトゥス> (MF文庫J)

  • 作者:真野真央
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2015/09/25
  • メディア: Kindle版

これが、色彩の魔女による魔法と魔法の攻防戦。

視界に存在するものをいかにして自分の色に染めるか。そこが、魔女同士の戦いにおいて重点を置くべきポイントなのだと理解する。

〈灰色の魔女〉が告げる.「――たった今、世界から“色”が消失しました」.色彩を司る六人の魔女の争いによって,世界から色が消失して六年.極彩省討伐局に務めるアイズ・グレイアッシュは,色霊討伐に向かった森の中で鮮やかな「赤の魔女」に出会う.

灰色一色となった世界を舞台にしたファンタジー.失った「色」と消えた少女を取り戻したいと願う主人公はヒロイックだし,二代目「赤の魔女」との出会いはボーイ・ミーツ・ガールのお約束.記号的な固有名詞が多く,七人の魔女の話ということで,ファンタジーというよりはおとぎ話(揶揄するわけではなく)を意図する面が強いのかな.

「赤の魔女」対「緑の魔女」をはじめ,テーマが「色」なので色の描写は鮮やか.なんだけど,ちょくちょく甘いところもある(色が消えて6年経ったのに,7歳くらいの女の子が色を知ってるか? とか)のは気になった.ラストはすごく気を持たせる終わり方をしているんだけど,続きが出る気配がないのがつらいね……

芹沢政信 『絶対小説』 (講談社タイガ)

絶対小説 (講談社タイガ)

絶対小説 (講談社タイガ)

  • 作者:芹沢 政信
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/01/22
  • メディア: 文庫

では幸福を得るために、君は何をするべきだろう?

読むのではなく、書きなさい。

現世から受けた折檻によって醜く腫れあがった己が心を癒やすために、ただひたすらに物語を紡ぎ、目に見える世界を虚構の色に染めあげるのだ。

文字の羅列に魂を売り渡し、佇立する肉体を記述せよ。

それこそが真なる幸福にいたる唯一の道。

百年前の文豪,欧山概念の未完の遺作〈絶対小説〉.それを手にした者は,欧山の文才が与えられるという.ライトノベル作家の兎谷三為にそんな話をした先輩は,原稿とともに失踪してしまう.

プロ作家の再デビューを支援するために創設された,第1回講談社NOVEL DAYSリデビュー小説賞受賞作.伝説の文豪の遺作と,「創作という永遠の呪い」をめぐる,あるライトノベル作家の冒険.失踪した先輩の妹をパートナーに,河童の集落に流れ着き,闇の出版業界人の巣窟である講談社に囚われ,欧山と神と崇めるカルト集団の島に拉致される.読みながら『二流小説家』と『Xと云う患者 龍之介幻想』を連想した.

幻想,奇想と言っていい類のアイデアだと思うんだけど,奇想小説らしからぬ朴訥とした文章や,淡々とした展開が妙におかしい.最初はミスマッチな印象が強いけど,だんだんと癖になってくる.再デビューという経緯があればこそ生まれた,不思議な巡り合わせの物語だと思う.読み終わる頃にはとても好きになっていました.

ちなみに一度目のデビュー作の感想はこちらから.

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紙城境介 『最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ 温泉旅行編:繋いだ手だけがここにある』 (ダッシュエックス文庫)

パブリックビューイングの観客が一斉に歓声を上げて、身体がびりびりと震えた。

ただの映像。

ただの画面。

ただの文字。

俺が実際に見ているのはそれだけのものだ。

でも、そこには熱があった。

ゲーム大好きの変人で通っている古霧坂理央と,学校一の完璧美少女,真理峰桜.学校ではまったく接点のないふたりは,VRMMO「マギックエイジ・オンライン」の中では最強コンビで名を馳せていた.ある日ふたりは,辺境エリアにあるという温泉クエストへと向かう.

「継母の連れ子が元カノだった」と同様に,男女双方の視点から交互に関係を描いてゆくラブコメ.MMORPGの熱狂だったり,自分たちは「『カップル』なんて有り触れた関係じゃない」と意地を張るふたりの距離だったり,「古き良き」という形容詞がしっくり来るラブコメだと思う.目新しさはあまりないけど,そういうものを丁寧に描いているところも「継母の~」と共通しているかな.ラブコメとしてはむしろ先祖返りしている気もする.



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高峰自由 『彼女と俺とみんなの放送②』 (電撃文庫)

彼女と俺とみんなの放送(2) (電撃文庫)

彼女と俺とみんなの放送(2) (電撃文庫)

  • 作者:高峰 自由
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/02/10
  • メディア: 文庫

「ネットで突然いなくなったら、連絡手段がないかぎり、死んだのと同じなんだよ。もう一生話すことも、遊ぶことも、笑い合うこともできないんだよ」

生放送に情熱を燃やす千遥のサポートに専念していた元人気ニコ生主,タクエルこと巧翔.ある日,千遥に会いたいとメッセージを送ってきた生主が現れる.その送り主は,引退したタクエルの妹分を名乗る少女だった.

ニコニコ生放送がつなぐ,出会いと別れと青春と.ドワンゴの協力を受けて書いているだけに,ニコ生の説明にしっかりページを取っている.その影響なのか,お話全体も説明的かつ無難な方向に進んでいた,ような気がした.高校生の青春ものとしては毒にも薬にもならない感じかなあ.それにしても,世に出たのはほぼ3年前になるのだけど,すでにやや古びた印象がある.ほんとインターネットは無常やで.