呂暇郁夫 『楽園殺し2 最後の弾丸(ラスト・バレット)』 (ガガガ文庫)

人を、斬ってきた。それはもう、数えきれないほどに。

生まれついての剣士というわけではなかった。人生の途中で、修羅にならねばならない転機が訪れただけのことだ。そういうことは、この砂塵塗れの世界では往々にして起こる。

偉大都市をたずねたのは、ある男を殺すためだった。

砂塵の舞う偉大都市。粛清官シルヴィ・バレトとシン・チウミは、それぞれの復讐を胸に「狼士会」頭領ルーガルーと“一〇八人殺し”の人形遣いにまみえる。

二人の少女、一つの運命。偉大都市に最後の銃声が鳴り響く。実質的に上下巻となった復讐譚の完結。スタイリッシュなアクション小説。設定はすごく好きだし、悪くはないんだけど、目が滑って頭に入ってこないところが多かったかなあ。



kanadai.hatenablog.jp

立川浦々 『公務員、中田忍の悪徳』 (ガガガ文庫)

《エルフ》が、初めて喋った。

喋ったのだが。

「ボベャルカッアッツロヌ」

ボベャルカッアッツロヌと言っていた。

誰も口に出さないのは、ちゃんと発音できる自信がないからであろう。

区役所福祉生活課支援第一係長、中田忍。責任感が強く、他人に厳しいが自分にはもっと厳しい32歳独身。ある日終電で家に帰ると、リビングにエルフの少女のようなものが倒れていた。

どうやらコミュニケーションはできるけど言葉は通じない。食生活もどうやらヒトとは違うらしい。そもそも本当に異世界から来たのかもわからない。異世界からやってきた(と思われる)《エルフ》の少女と、地方公務員の交流、観察、あるいは福祉の在り方について描いた、第15回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作。未知との遭遇、生態の解明、コミュニケーションの探求と、《エルフ》へのアプローチの仕方は完全にSF的な思考に則ったもの。ほぼ主人公の家(間取り図付)で話が進むこともあって、石黒達昌をライトなシチュエーションコメディに仕立て直したような趣があった。最初に心配するのがそこ? だとか、話の運び方に粗いところもあるけど、途中からは夢中で読んだ。とても楽しかったです。

紙城境介 『僕が答える君の謎解き 2 その肩を抱く覚悟』 (星海社FICTIONS)

どうしてなんだ。

どうしてみんな、そんなに何も考えないで生きていられるんだ。

カウンセリングルームの引きこもり、明神凛音は真実しか解らない。クラスメイトの伊呂波透矢は、神の啓示を受けるかのように無意識で真実にたどり着いてしまう凛音の論理を推理したり、日常の世話を焼いたりしていた。ある日迎えた臨海学校で、ふたりは深夜に密会していた疑惑を押し付けられる。

謝罪することが重要なんじゃない。

そういうことがあると、知っていること。

誰かを傷付ける可能性を、頭の中に持っておくこと。

そうすれば、次は気を付けられる。

スポイルされた、易きに流れる、何も考えない人間にはならないでいられる。

臨海学校で対峙するのは、35人の嘘つきと、ひとりの正直者。「本格ラブコメ×本格ミステリ」の第二巻。本格ミステリとしての完成度は非常に高く、その上で三角関係を押し出したラブストーリー分も恐ろしく濃密。情報の密度が胸焼けしそうなくらい濃いのに、びっくりするくらい読みやすい。語りのスタイルは「継母の連れ子が元カノだった」や「転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?」と共通しているのだけど、ミステリを書く上でこれ以上ないほど活かしていると思う。

弁護士志望の主人公だけあって、単に謎を解くだけではなく、法や倫理(あくまで最小限の)を念頭に置いて考え悩み、人間についてままならないもどかしさに懊悩しているのがとても良い。それにしても、モリアーティみたいなゴリゴリの敵役が出てくるとは思わなかったし、チビギャルさんこと紅ヶ峰もかわいい。この作者の描くサブキャラクターはどれもほんとに魅力的。ラブコメ好きも本格ミステリ好きも読むといい。傑作です。



kanadai.hatenablog.jp

水田陽 『ロストマンの弾丸』 (ガガガ文庫)

怒りという燃料はお世辞にも上質とは呼べず、燃え上がることで体を突き動かすそれは、同時に未那の心を確実に消耗させていた。

心というのは大食らいな上に偏食家なきらいがあり、他の滅多な動機では動こうとはしてくれない厄介者だ。悪党の前で剽軽な態度を取ることで恐怖と怒りから一時的に目を逸らしても、こうして事がすんだあとには、見て見ぬふりをしただけの自分の心と向き合うことになる。

終戦を機にマフィアたちが流れ込んだ無法の街トーキョーは、いつしかロストマンズ・キャンプと呼ばれるようになっていた。フィオレンツァ・ファミリーと「名誉ある橙」の二大マフィアがしのぎを削るロストマンズ・キャンプには、いつからか嘴の覆面を着けた義賊「ビークヘッド」が、10年前に起きた事件を探っていた。

運び屋の男と嘴の覆面は、マフィアの銃弾飛び交う無法の街を駆ける。第15回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作。トーキョーをめぐるマフィアの抗争に母を殺された少女の復讐劇。あるいは組織に身を捧げ、捨てられた男の覚悟の物語。どストレートなハードボイルドの、現代的な翻案だと思う。お約束を忠実になぞっているので大きな驚きはないけど、いい意味でシンプルな読み口になっていた気がした。

岸馬鹿縁 『嘘つき少女と硝煙の死霊術師』 (ガガガ文庫)

人間よりも死骸を愛し、愚かで不善の選択をし、真っ当などとはとても言えない。

けれどだからこそ。まるでお祭り騒ぎのような生き様と、死に様を。

この世で唯一、死を祝福する愚か者達の代表として。

祝福する。

「あなたもまた、死霊術師らしい死霊術師だった」

死霊術とは、死者を蘇らせ使役する秘奥。ヴェルサリウス評議国は、汚れ仕事を請け負う国家死霊術師を密かに組織化することで発展を遂げていた。死霊術師のひとり、ウィリアム・ジルドルッドは、相棒の“死骸”(デッド)ライニーとともに国家の影で粛清の任務に就いていた。

第15回小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞。死霊術師と死骸の、あるいは少年と少女のバディもの。オーソドックスなダークファンタジーだと思う。個人的にはあまり見るところはなかったのだけど、社会における“死骸”(デッド)の立場や、産業における大量の“死骸”(デッド)の使われ方は『屍者の帝国』を思わせるもので、ちょっとおっとなった。