《エルフ》が、初めて喋った。
喋ったのだが。
「ボベャルカッアッツロヌ」
ボベャルカッアッツロヌと言っていた。
誰も口に出さないのは、ちゃんと発音できる自信がないからであろう。
区役所福祉生活課支援第一係長、中田忍。責任感が強く、他人に厳しいが自分にはもっと厳しい32歳独身。ある日終電で家に帰ると、リビングにエルフの少女のようなものが倒れていた。
どうやらコミュニケーションはできるけど言葉は通じない。食生活もどうやらヒトとは違うらしい。そもそも本当に異世界から来たのかもわからない。異世界からやってきた(と思われる)《エルフ》の少女と、地方公務員の交流、観察、あるいは福祉の在り方について描いた、第15回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作。未知との遭遇、生態の解明、コミュニケーションの探求と、《エルフ》へのアプローチの仕方は完全にSF的な思考に則ったもの。ほぼ主人公の家(間取り図付)で話が進むこともあって、石黒達昌をライトなシチュエーションコメディに仕立て直したような趣があった。最初に心配するのがそこ? だとか、話の運び方に粗いところもあるけど、途中からは夢中で読んだ。とても楽しかったです。