佐野しなの 『リヴァースキス』 (電撃文庫)

リヴァースキス (電撃文庫)

リヴァースキス (電撃文庫)

第7回「電撃hp」短編小説賞<大賞>受賞の TS もの短編連作.テキストの大部分を占める善とトモヨシの漫才はベタだけどテンポ良く,少女漫画ネタや軽い下ネタの絡め方も上手かったせいか嫌味なく楽しかった.とはいえ,はじめのうちは素直に楽しんでいたのだけど,中盤で少しばかり中だるみ.どの短編も同じような締め方だし,なんで同じネタをくどいくらい繰り返すかなあ……と思っていたら,最後でそれが伏線だったことを知る.スマートとは程遠い,えらく泥臭いどんでん返しだったけれど,読んでる最中の疑問や不安はすっきり解消された.終わり良ければすべて良し,ってわけではないけど,読後感は悪くなかった.
TS はあんま詳しくないのだけど,男のままの自分が目の前にいる,ってのが他との大きな違いになるのかな.全編ギャグテイストで処理しているのであまり考えずに済んだけど,自分からキスを迫られるのは想像してみてもぞっとしないわな.藤子・F・不二雄の短編に夫婦の中身がそっくり入れ替わるという話があって,それを読んだときも似たような疑問を持ったもんだけど,その状態で「相手」に恋愛感情を抱けるもんなのか.つーかこれ,自分の姿をした何者かと何者かの姿をした自分との恋愛なんだよな.とかいろいろ想像の幅が広がりそうなテーマだよなこれ.続きが出るのかどうか知らないが,出るなら二人のラブ感情の揺らぎをごまかし無しで読んでみたい.頼みます.