虚淵玄 『アイゼンフリューゲル』 (ガガガ文庫)

アイゼンフリューゲル (ガガガ文庫)

アイゼンフリューゲル (ガガガ文庫)

地にひとが住み,空には龍が住んでいた時代の,戦争と戦争の狭間の時期.速く飛ぶこと,ただそれだけのために集まった天才たちが作り上げた,ジェットエンジン搭載の航空機.レシプロエンジンが主力の時代,テストパイロットを勤めるのは前の戦争で英雄とあがめ奉られた男だった.
戦争を倦みただ飛ぶことだけを求めて軍から離れた男,死んだ仲間のために軍に残った男.戦いを憎む,と言葉で言うのは簡単だし,態度で示すのもそう難しいことではないはず.でもそれだけでは戦争という社会現象の前ではまったく力を持たないよね,というじりじりした苦しさを対照的な道を選んだ二人の男たちの背中に描く.夢と現実,というフォーマットであることは間違いないのだけど,どちらへ転んでもうまくいく気配が無いという息苦しさはなかなかきつい.
そんな話において,龍との競争のシーンは圧巻.迫力もさることながら,速さ比べを楽しみ,自分より速い相手には純粋な敬意を表する龍たちは,窮屈な物語世界の救いであり希望でもある.
てことで面白かったです.しかしこれ話運びがハードで続きがまったく想像できないな*1.早急に続刊を要求する所存です.

*1:鍵を握っているのはおそらく龍だろうけど