トム・ロブ・スミス/田口俊樹訳 『グラーグ57』 (新潮文庫)

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)

しかたのないことだった。


このことばが何千もの命を奪ったのだ。何千もの人間を殺したのは銃弾ではない。彼らを殺したのはゆがんだ論理と入念に考え出された屁理屈だ。(後略)

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫) - はてなキーワード

「憎しみがどんなものかはよくわかってる」

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫) - はてなキーワード

子どもたちばかりを狙った連続殺人から 3 年.レオはモスクワ殺人課を立ち上げ精力的に活動をしていたが,養女として迎えた孤児の姉妹,とりわけ姉のゾーヤから激しく憎まれ恐れられていることに心を痛めていた.一方モスクワ市内では,スターリンの死後はじめての党大会で,フルシチョフスターリンの過ちを認める発言をした「報道不可」文書が動揺を招くことになる.
『チャイルド44』の続編.ソヴィエト体制下でなければ起こりえなかった,幾重にも重なる復讐劇の行方を描き出す.憎悪と復讐の念が女に銃を取らせた,っつー書き方だとアレだけど,コルイマの第五十七強制労働収容所(グラーグ57)での反乱やハンガリー革命などと絡めて描かれるドラマは出口のない悲劇の様相を呈する.ミクロ(個人)レベルとマクロ(国家・体制)レベルが作る大きな渦も,前作から比べるとずっと分かりやすくなっていたと思う.「しかたのないことだった」でお互いを許すことしか救いがない,なのに目を離さずにいられない社会の有様は前作にまして強烈だった.