杉山俊彦 『競馬の終わり』 (徳間書店)

競馬の終わり

競馬の終わり

「競馬を終わらせる馬の登場ですよ」
最後に現れたポグロムを指差して梅岸は言った。「生身の馬を死滅させる預言者だ」

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22 世紀の初頭.世界は混乱の中にあった.全地球規模の異常気象によりアメリカ経済は破綻.軍事的影響力を失ったことにより,空前絶後のラーメンブームに湧いていた日本は,ロシアに宣戦布告されたのちあっさり占領されていた.その日本において,人間のサイボーグ化を押し進める団体の圧力により,すべてのサラブレッドが三年後にサイボーグ化されることが決定した.
第 10 回日本SF新人賞受賞作の一冊.生身の馬体での最後のダービーを勝つべく生産された競走馬,ポグロムの活躍と競馬の終わりのかたち.競馬の知識がほぼゼロの私だけど,馬体の表現や血統への思い入れといった部分の描き込みを読むに,サラブレッドやその血統に対する情熱は本物だとお見受けする.本筋だけ追っていくと普通にいい競馬小説だと思う.
思うんだけど,それを "SF" にしたことで,この小説はものすごく味わい深い作品に変貌する.世界各所の世紀末的様相を呈する競馬場しかり,占領下の日本のなにやらトンチキな占領政策しかり,名前だけ出てきて特に意味を成さない未来ガジェットの数々しかり.どこかずれたようなとぼけたアイテムや風景を,さも普通の日常であるかのように淡々と配置していく.そこから生まれるミスマッチ感がすげー楽しかった.というか読み始めは素なのかギャグなのか判別できなかった.
つーことで面白かったです.しかし私は大好きな作品なんだけど,面白がれるひととそうでないひとがはっきり割れるだろーなあ.