上田早夕里 『魚舟・獣舟』 (光文社文庫)

魚舟・獣舟 (光文社文庫)

魚舟・獣舟 (光文社文庫)

作者の第一短編集.2009 年の日本SF大賞候補にも選ばれている.全六作の短編に共通するのは静かで悲しい物語,かな.しんしんと積もる,刺さるような冷たさというか.ひたすら息が詰まった.どの短編もいずれ劣らぬ傑作だと思う.

魚舟・獣舟

陸地の大半が水没した未来,「魚舟」と呼ばれる舟の上で生活する海上民と,〈操舵者〉を持たない「獣舟」がいる世界での人類の話.魚舟,獣舟のアイデアと,人間・生物それぞれが持つ噛み合わないエゴが物語のなかでかっちりと.

くさびらの道

非常に強い感染力と高い致死率の寄生茸が日本を蔓延しつつあった.その茸は幽霊を生み出すという.幽霊が茸の見せる幻覚であることを理解しながら,愛するひとはすでにいないことを知りながら,それでも抗えない.あまりにやるせない.

饗応

人間に振り回される人工知性体の幻想と現実.人工知性体は『魚舟・獣舟』に登場したやつのバリエーションなのかな.現実味の薄い話運びはどこか北野勇作チック*1.それでいて薄ら寒く,ラストはもの悲しい.

真朱の街

先進的な医療特区は今では妖怪と人間が共存する奇妙な街となっていた.科学が発達したことが原因で妖怪が存在できるようになったという皮肉を,古い妖怪譚のような味わいで静かに.未来の怪談.

ブルーグラス

周囲の音に反応して成長するインテリア・オブジェ「ブルーグラス」.今は別れた彼女とともに育てたブルーグラスに男が抱いた感傷.ウェットな思い出とドライな現実の対比は徹底していていっそ滑稽なくらい.

小鳥の墓

理想的な人間を育んでくれるはずの教育実験都市.厳しい審査と馬鹿高い倍率をくぐり親子三人でやってきた少年と両親の行く末.約 170 ページとこの中では群を抜いて長い.途中まではディストピア SF に近いかと思ったのだけど,父母の有り様が明らかにされるに連れて,さらに「小鳥の墓」の意味するところが明かされるに連れて物語は一変して見えるようになる.

けれども男は、いまの自分を、ほんの少し気に入っていた。
ダブルE区で、「よくできた賢い子供」と呼ばれていた頃よりは、多少はましな人間になれたはずだと信じていた。

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*1:「戦争」というワードのせいかも