大西科学 『さよならペンギン』 (ハヤカワ文庫JA)

さよならペンギン (ハヤカワ文庫 JA オ 9-1) (ハヤカワ文庫JA)

さよならペンギン (ハヤカワ文庫 JA オ 9-1) (ハヤカワ文庫JA)

まったく、脳はどこから見ても、ノートやビデオレコーダーに似たものではない。海馬から大脳皮質に情報が転写されるとき、その情報は単純化され、ひとつながりの情景、ストーリーになるように取捨選択される。そこにあるのは情報の圧倒的な、不可逆圧縮だ。

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塾講師の南部観一郎は,体長 70 センチのフンボルトペンギン,ペンダンと同居していた.世界の観測者である南部と,人間の言葉を話し,「認識」を裏返すことで少女の姿をとったりもする皮肉屋の延長体ペンダンは,1500 年以上の時をともに生きていた.
カバー曰く「哀愁の量子ペンギンSF」.分岐を繰り返す無数の「あり得る世界」から,「自分が生きている世界」をそれと意識しないまま観測し続けることで,永遠に近い生を送ってきた男とペンギンの話.観測すること,意識すること,記憶すること.それらがヒトと世界の間に与えるフィードバックとかなんとか,そういったもろもろを,ユーモアを交えて静かに描いてゆく.1500 年を超える記憶の重みは詳述せず,ほのかに漂わせるに留める.抑えた語りと合わせて読みやすく心地よい.後半の展開は,ちょっと感想をあさった感じだと賛否両論? のようだけど,誰かの「ストーリー」と別の誰かの「ストーリー」が噛み合わないなんてざらにあること.正解なんてない世界,問題解決もいろんな形があるだろさ.私はすごく良かったと思います.