ジャック・フィニイ、ロバート・F・ヤング他/中村融編 『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』 (創元SF文庫)

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)

わたしは、これまでに三人の男を愛しました。最初は母の恋人。二度目はわたしの夫。そして三度目は……。
その三人の男のことを、これからお話ししたい──そして、わたしのことも。なかには、あなたが聞いたら病院へ逆戻りする羽目になるような話があるかもしれないけれど。
どうか口をはさまないで。

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250 年の時間を隔てて育まれる恋,ウィリアム・M・リー「チャリティのことづて」.ロマンティックではあるんだけど,不毛な関係だなあとも同時に思ってしまう.
時間が逆に流れる世界におけるひとの一生,デーモン・ナイト「むかしをいまに」.ドリフのコントでも見かけたアイデアで短篇一本を描ききった.くだらないようで,ラストが妙に神々しく見える.
映画撮影のために用意したレトロバスが体験した,一夜限りのタイムスリップ.ジャック・フィニイ「台詞指導」.深夜のニューヨークを走るおんぼろバスと,乗客たちの映像が美しく脳裏に浮かぶ.
記憶をそのままに,子供のころに戻ってしまったミセス・トッキン.ウィルマー・H・シラス「かえりみれば」は,人生やり直しにまつわるさまざまの苦労を描く話.身に染みるエピソードが思いのほか多くて楽しい.
10 年の時を隔てて過去へ戻ってきたフレッチャー.なぜ彼はタイム・トラヴェルをしたのか? バート・K・ファイラー「時のいたみ」.タイム・トラヴェルを行うと同時にそれまでの記憶(タイム・トラヴェルをした動機)が消失してしまうのが味噌.なんだかんだでいいラストだと思う.
白亜紀後期,トリケラタンクのサムに乗ったカーペンターが出会ったのは火星人の姉弟だった.ロバート・F・ヤング「時が新しかったころ」.ユーモラスな冒険活劇の風情.ラストは『夏への扉』っぽかったかな.
わたしの愛した三人の男,そして母との関係.チャールズ・L・ハーネス「時の娘」.女の執念の話,なのかな.この状態に到るまでの,彼女の心境を想像してみるけれどよく分からない.母としての行動なのか,娘としての行動なのか.重心がどっちにあるのか.難しい.
悠久の時をたゆたいながら,スモークブルーの瞳を持つ娘を探し続ける男の話.C・L・ムーア「出会いのとき巡りきて」.現代でいうと『STEINS;GATE』にあたるのかしら.ヒロインの同一性をどう定義するかが,1936 年(初出)と現代のいちばん大きな差かもしれないとか思った.
いなくなった友だち,インキーに捧げる曲が出来るまで.ロバート・M・グリーン・ジュニア「インキーに詫びる」.時代をまたぎながら「ジグソーパズルのように」組まれてゆくストーリーと,美しくて優しいラストが素晴らしい.この短篇集のベストの一篇だと思いました.