入間人間 『瞳のさがしもの』 (メディアワークス文庫)

僕の目が衰退する中でも、世界は動く。その中には悪い流れと、良い流れがあって。
少なくとも目の前に見えているそれは、良い流れの中で生まれたのだと信じたい。そしてそうした善良なる答えがあるのならば、僕は失明という悪しき結果も受け入れられるような気さえした。川が流れることに善も悪もない。等しく、流水があるのみだ。

瞳のさがしもの

ここには片想いが二つある。そのどちらも成就するものではにゃい。しかし、いつか彼女が誰かと両想いににゃったとしても、ぼくは蚊帳の外であっても、彼女を想う心は失われにゃい。独立していることが片想いのかにゃしさでも、強さでもある。

にゃんと素敵にゃ

電撃文庫MAGAZINE収録作三篇に,書き下ろし二篇を加えた短篇集.「片想い」が共通するテーマと言っていいんだろうか.飼い主への飼い猫の片想い(猫の一人称なので「な」がすべて「にゃ」になっている)を描いた「にゃんと素敵にゃ」.徐々に視界が失われてゆく男が20年かけて片想いの相手を探す「瞳のさがしもの」.鏡の中にしか見えない相手に惚れ続けた男の話「みんなおかしい(ぼく含む)」はラストのぺらっとめくったところの仕掛けが良い.この本に限らず,なんか切ない恋愛話のようでそうでもないような,さっくりカジュアルに読める変な話をぽんぽんと書いてくれるのが作者の頼もしいところだよな.良かったです.