六塚光 『墜落世界のハイダイバー』 (スニーカー文庫)

墜落世界のハイダイバー (角川スニーカー文庫)

墜落世界のハイダイバー (角川スニーカー文庫)

真の問題は、神護の目には狂信的としか思えないこの態度が、イセス・メリアにおいてはごく当たり前の常識だ、という点にある。
郷に入っては郷に従え。たしかに、それは一つの真理だ。しかしながら、郷の掟が我が身に危険を及ぼすものとなると、黙って従うわけにはいかない。

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コンビニで買物をしていた八浦要たち三人は,ふっと気が遠くなった次の瞬間,異世界イセス・メリアへと墜落していた.アッシュと名乗る少女に救われた要は,行方知れずになった二人と合流し,元の世界へ戻るため行動を開始する.
五つの月へ向かい「墜落」することで空を飛ぶなど,重力を操り様々な能力を使いこなす引導士(ハイダイバー)たちのいる世界,イセス・メリアでの戦い.イセス・メリアでは○○(ネタバレ)の大小が人間の価値を決める,というギャグのようなアイデアを,そのまま話の中心につなげているのはすごく上手い.話の通じない面倒くさい権力者と,容赦のない排斥は,人種や宗教による弾圧や価値観の衝突などにまんま通じるんだけど,それが○○で決まる,ということのバカバカしさ,しかし一定以上の説得力もきちんと持っている,という.というか率直に言ってこんなひどい異世界はじめて見た.異世界ファンタジー,ではあるけど,ひとことでくくってしまうといろいろ言葉足らずになってしまうかな.
ハイダイバーたちの空中戦闘や,重力を「つかむ」戦闘描写も面白い.ひとつだけ,前触れもなく唐突に「異世界」に追いやられながらも,主人公たちがなじむのがえらく早いのは少し違和感があった.突っ込むことでもないけど,えらくドライというか.