深見真 『硝煙の向こう側に彼女』 (エンターブレイン)

硝煙の向こう側に彼女

硝煙の向こう側に彼女

「ええ。弾道は数学、物理学です。嘘をつかない。どんなトリックを弄しても、相手の体内に弾道という物的証拠が残る可能性が高い。撃った犯人にも、火薬の反応が出る。銃は戦闘で人を殺すための道具です。ミステリの小道具には使えません」

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2010 年代.日本は武力行使を前提とした自衛隊派遣を開始し,結果として日本もテロとの戦争に巻き込まれることになった.国内各都市でも自爆テロが頻発する.警視庁捜査一課理事官の湧井は,「拳銃と寝る女」塚田志士子を誘い,対テロ専従部署を作る.
日常とテロが隣り合わせとなった現代日本を描いた警察小説.変わってしまった世界で,日本人が個人レベル・組織レベルでどのようにテロと関わってゆくのか.テロの脅威に向き合いながら,相変わらず縄張り意識が消えない警察組織.人生や倫理観を大きく歪められることになった個々人.という構図を分かりやすく,かつバイオレンス小説の痛快さを損なわず,テロがもたらすやるせない争いも盛り込む.いつもの深見真,よりもハード犯罪小説*1寄りかな.銃器や映画のウンチクが語られ,ゲイやレズビアンが登場するのはまあいつもどおりだけど,良い意味で抑えめの描写をしている印象.しかし熱はしっかり感じられる.誰にでも読みやすいと思うので,これから深見真を読んでみようというひとにもいいんじゃないかな.楽しゅうございました.

*1:ハード SF と同じ意味で