入間人間 『昨日は彼女も恋してた』 (メディアワークス文庫)

かつて足を折った祖母の見舞いに行ったとき、言われたことを思い出す。
難しいことを考えているうちは、簡単なことができなくなる。
簡単なことのできないやつは、難しいことができない。
「……祖母ちゃんは賢いなぁ」
僕らはもっと、シンプルに生きるべきなのかもしれない。
謝ることも、やり直すことも。もっと簡単に、始められたはずなのだから。

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人口500人ほどの小さな離島に住む大学生のニアは,車椅子の少女マチと9年前に決定的な決裂を経ていた.ふたりは,島に住む変わり者の自称科学者,松平さんのタイムマシンの実験に協力している.タイムマシンそのものはまったく信用していなかったふたりだったが,ある実験で,ふたりは9年前にタイムスリップしてしまう.
『昨日は彼女も恋してた』,『明日も彼女は恋をする』二部作の前篇.決定的に決裂してしまったふたりが,過去に戻り仲の良かった子どもの自分たちの姿に直面する.記憶にあるよりずっと頭の悪い子どもだった自分たち,痴呆になる前の祖母,時間から取り残されたように変わらない小さな島.ニアとマチの一人称を交互に描かれるため,9年の間に何が起こったのかいちいち説明されることはない.ニアを完全に拒絶しきったマチの態度が,非常にきつく描かれており,なかなか精神的にくるものがある.いくらかの切なさと,細々とした気になる仕掛けをあちこちに周到に配置した,時間SFのお手本のような小説だと思う.やはり器用だし上手い作家だよなあと.その仕掛けが本当に生きてくるのは,『明日も彼女は恋をする』(読み中)に入ってからなので,この時点では気づかないことも多々あるのだけれど…….