コタニ夕多 『ステレオjct』 (講談社BOX)

ステレオjct (講談社BOX)

ステレオjct (講談社BOX)

人生なんてさぁ……要するに、ゲームみたいなものなんだよ。(中略)哲学なんてさぁ、ソフトを分解して中身のチップと睨めっこしながらゲームの面白さを解明しようと躍起になってんのと同じさ。超バカバカしい。そんな素人根性で機械壊しちゃったりしたらさぁ、それこそ本末転倒ってやつだろ? どうすんだよ、そんなのせっかくの名作も台なしだろ。だから……まぁだから、遊ぶのさ。(後略)

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ゲーム攻略サイトのカリスマ管理人である「名無し様」と知り合いになった「私」は,互いを特定するゲームを始めることになる.第15回講談社BOX新人賞Powers受賞作.柔らかい丁寧語の一人称が独特で面白いけど何の話かよくわからんなーと思いながら読んでいくと,村上春樹のことを2ページ以上に渡って一方的に語る(そのくせ「純粋にハルキの才能を評価しているだけ」であってファンではなく,ましてハルキストと呼ばれる筋合いはまったくないという)面倒くさいメイド喫茶店員が登場したり,主人公はパスタを作ったりする.村上春樹リスペクトなのかな,と思いながら読んでいったら,これが序の口だったことを知る.
3ページ,4ページを平気で超える長台詞を何十箇所も使い,一章は村上春樹,二章はドストエフスキイを(たぶん)モチーフにしつつ,人生とか恋愛とかをヤマなく意味なくオチなくだらだら語る.講談社BOXらしからぬ恋愛小説な気もするし,実はこれといって意味のない雑談のではないかという気もするし.そういう意味でなんとなく木下古栗と似たにおいを感じる.方向性はぜんぜん違うのだが……なんだろうな,これ.帯曰く,“毒々しくて真剣な無駄話は、メイド喫茶から現代文学、上京者の孤独、恋のできない腐女子の憂鬱へ――。”.あらすじはほぼこれですべてなんではないかな.いやー,なんか変な小説でした.