マイクル・コーニイ/山岸真訳 『パラークシの記憶』 (河出文庫)

パラークシの記憶 (河出文庫)

パラークシの記憶 (河出文庫)

(前略)前にミスター・マクニールに尋ねたことがある。「あなたたち地球人は、それほどの知識があるのに、なぜいまだに宗教を持っているのですか?」そのとき、ミスター・マクニールは長いこと考えこんで、これはとても深遠な答えが聞けるぞとぼくが期待しはじめたときに、こういった。「面白半分、ではないかな」

Amazon | パラークシの記憶 (河出文庫) | マイクル・コーニイ, 山岸 真 | 英米文学 通販

ヤムの男長の甥,ハーディは,父と出向いたノスで,女長の娘であるチャームに出会う.伝説の女性であるブラウンアイズと同じ,茶色い瞳を持つ少女.それぞれの独自の価値観から反発しつつも惹かれあうふたりは,海に浮かんだ刺殺体を発見してしまう.
『ハローサマー、グッドバイ』(感想)の続篇.「ハロサマ」の内容は正直ほとんど覚えていないのが申しわけない.主人公は記憶が遺伝するという同じ特性を持ちながら反目する種族の少年少女.大枠はSFなのだけど,ボーイ・ミーツ・ガールから始まり,ミステリが流れ,少年少女の成長が描かれ,やがて伝説の時代である『ハローサマー、グッドバイ』に還ってゆく,みたいな.小説のすべてが盛り込まれた小説ではなかろうか.記憶の遺伝というアイデアとそこから生まれる価値観が個人的に面白かったところ.陸で暮らす民と海辺で暮らす民,さらに男女で別々の長を立てて生活している.記憶を受け継がなかった者は爪弾き,さらにそれらとは別に地球人も入植している,という世界のありよう.世界の発祥もいいけど,世界がこの時代にいたるまでの経過というか年譜も,読めたなら読んでみたかったなあ.