宮野優 『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』 (角川書店)

これは信仰とは無縁だった私が奇跡を信じるに至るまでの物語だ。地獄に射した一筋の光明の物語だ。生まれ変わったこの世界では、誰もが奇跡と地獄を知っている。

一人娘を凌辱され、殺された私は、少年法に守られてのうのうと暮らす犯人の居場所を突き止めた。そして今夜が決行の日。犯人を包丁でメッタ刺しにすることに成功した私は、復讐の決行を決意した瞬間に戻っていた。何度殺しても、何度殺しても、時計が先に進まない。

全人類が同じ「今日」を繰り返すようになり、感染が広がるかのように、その事実が時間差で少しずつ知られるようになる。記憶を持ったまま一日を繰り返していることに気付いた者とまだ気づかない者がいて、その割合も変わっていく。いつ終わるかわからない、もしかしたら今日で終わってしまうかもしれない。一日を繰り返す世界で、人々はどのような絶望と希望を抱いて生きるのか。とても良かった。一口でループものと言っても、いろんな切り口があって、切り口の数だけアイデアがあるんだなあ。説明しすぎないテキストに、叙述トリックとまではいかないけどちょっとしたミスリードを導く語りが読んでいて癖になった。短編小説のひとつのお手本になるのではないかと思った。時間SFの新しい傑作がまたひとつ。カクヨムで読めるのでとりあえず冒頭だけでも読んでみてほしい。本当に良いものでした。



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