坂本壱平 『ファースト・サークル』 (ハヤカワ文庫JA)

ファースト・サークル (ハヤカワ文庫JA)

ファースト・サークル (ハヤカワ文庫JA)

それ以来、私の頭はファースト・サークルのこちら側にある。
こちらにいることに、今のところ特に不便は感じていないが、時々息子の顔を見たくなる。
見ていた番組の続きも気になるといえば気になる。
困ったことといえばそれくらいだ。

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何気なく見ていたテレビに映ったのは,不思議なリズムの手拍子と,トーガのような男を中心とした一つの輪.頭の中に響く手拍子に身を委ねるうち,「私」の頭はファースト・サークルの向こう側にいた.私は自分の頭を求めて,テレビに映っていた場所に向かう.
奇数章と偶数章で平行して描かれるふたつの世界が入り混じる.第1回ハヤカワSFコンテスト最終候補作のひとつ.つながるふたつの平行世界,新しい世界を創造するファースト・サークル.何が進行しているのかなかなか明らかにされないのだけど,独特なリズムのある文体(カギカッコは一切使わないとか)と,起こっている現象のトンチキさが面白くてついつい読んでしまう.ぱ,ぱん,ぱ,ぱん,ぱん.ふぁーすとさーくるふぁーすとさーくるふぁーすとさーくるふぁーすとさーくる.ビジュアル面の描写が特徴的なのも特徴かな.しかしこのノリでまさか野球対決が始まるとは思ってなかったからびっくりした.区間を切り裂くホームランの軌跡には妙な感動を覚えたよ.理屈をつけようと思うといろいろつらいけど,「新世代の幻想小説」というキャッチコピーはぴったりだと思いました.