三秋縋 『スターティング・オーヴァー』 (メディアワークス文庫)

「――今の世の中を見ていて私が思うのは、むりやり裸の王様に仕立てあげられている人が大勢いる、ってことなんだ。んーと、つまりね、王様は事実、『馬鹿には見えない服』を着ているの。けれども群集はどうしようもない馬鹿ばかりだから、それが全然見えないのね。そこで一人、とびきり愚かな子供がいうの。『王様は裸だ』、って。すると周りの馬鹿も安心して、『王様は裸だ』っていうようになる。王様は慌てて、『いやいや、そんなことはない。現に見えている人もいるんだぞ』って主張するんだけど、いくら証拠として服を突きつけられても、馬鹿は自信満々に、『私には見えないね』っていい切るの。……私がいいたいころ、わかるかな?」
「わかる気がする」と僕は応える。

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「二十歳の誕生日を迎えた僕が、十歳まで時を巻き戻されて、再び二十歳になるまでの話」.十歳のクリスマスから始まった二度目の人生で,一度目の人生と何ひとつ変わらないことを目指した「僕」は,その歯車を大きく狂わせてしまう.
1990年生まれの新人作家デビュー作.充実した一度目の人生と,「代役」乗っ取られた二度目の人生.時間SFを連想させるあらすじから,こんなストーリーになるとはまったく想像できなかった.これは奇想と言っていいのではないか.ストーリーラインがぶちぶち途切れる感覚があり,アイデアに筆力が追いついていない部分はあるかなぁ,とはちょっと思った.うまいひとが同じアイデアで描いたなら,たぶんこの何十倍も面白くなると思うのよね.と言っても,作者はまだ若いしこれからに期待できるかな.二作目も買ってみます.良かったです.