人間六度 『きみは雪をみることができない』 (メディアワークス文庫)

「私は家族で、あなたは他人だから。他人だから、伴侶になれる存在ってことです」

ある夏の夜。文学部一年生の埋夏樹は、芸術学部の先輩、岩戸優紀と出会い恋に落ちる。いくつもの夜をいっしょに過ごす二人。だが彼女はある日夏樹の前から姿を消す。優紀に関する不穏な噂を知った夏樹は、名古屋にある彼女の実家を訪ねる。そこにいるのは、静かに眠り続ける優紀だった。

毎年10月31日に眠りにつく彼女。見守り続ける家族。春にまた会えるまで、ひとり冬に向かって歩くぼく。第28回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞受賞作は、「特別」ではない「普通」がすれ違う恋愛小説。特異な体質を持った彼女との関係だけではなく、その家族の有り様を丁寧に描いているのが印象に残る。作者自身の経験がかなり反映されているのか、ハヤカワSFコンテスト大賞の『スター・シェイカー』とはかなり対称的な、地に脚のついた物語だと思う(SF的な仕掛けもある)。恋愛小説でもあり、その一方で家族小説でもあったのかもしれない。『スター・シェイカー』とぜひ一緒に読んでみてほしい。



kanadai.hatenablog.jp