根本聡一郎 『宇宙船の落ちた町』 (ハルキ文庫)

宇宙船の落ちた町 (ハルキ文庫)

宇宙船の落ちた町 (ハルキ文庫)

  • 作者:根本聡一郎
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2019/11/15
  • メディア: 文庫

「三万円で手に入る科学的に正しい情報は、無料で手に入る感情的にほどよいデマに叶わなかったんだね。この国で科学を信じてる人って、あんまり多くないから」

何もない田舎町,宇多莉町で生まれ育った青砥佑太は,14歳の夏,巨大な宇宙船の墜落を目の前で目撃する.それから10年.宇宙船に乗っていた九百二人のフーバー星人が地域社会に溶け込みつつある一方,避難区域となった宇多莉町から近隣の大都市・舞楼市に移り住んだ佑太は,フリーターとして無気力な日々を送っていた.

宇宙人と地球人,多数派と少数派,共生と差別,都会と田舎,被災地とそれ以外.現代の日本で起こっているリアルな分断と,サブタイトルをつけるなら「押しかけ女房はアイドルで宇宙人!?」みたいなストーリーが,不思議なレベルで入り混じっている.シンプルなんだけどハイコンテクスト,そして描かれるものはどがつくストレートで,読後感はなかなか複雑.

国民的アイドルで宇宙人でもあるヒロイン・常盤木りさの存在が重くなりそうな話を救っていたのだと思う.いやみがなくちゃんとかわいいし,いるだけで融和の象徴としての存在感があり,読みやすさまで付与してくれる.結果として,楽観的というか希望的観測にあふれた小説になっている印象はあるのだけど,現状を見て楽観的にならなきゃやってられるか,みたいな気持ちはよくわかるのよね.「コメリ」や「東スポ」はともかく,「自民党」と「民主党」まで実名で書くのは作者の矜持が感じられた.良かったです.