小林湖底 『少女願うに、この世界は壊すべき ~桃源郷崩落~』 (電撃文庫)

天に揺蕩う集合文化意識はあらゆる常識を改変した。物理法則を基礎づける論理体系のパッケージは強制的に数世紀前のそれへと置換され、自然科学の発展するべき道は永久に閉ざされてしまった。つまり世界は変わったのだ。

浮塊・榮凛島の寒村、桜泉里。無法者の天颶たちにたびたび蹂躙される村は窮地にひんしていた。狐の因子を持って生まれた少女、熾天寺かがりはそんな村で生まれ、その姿ゆえに迫害されて生きていた。こんなくそったれな世界はぶっ壊してやる。そう願っていた彼女の前に、この島の神である“炎帝神農彭寿星”を名乗る全裸の男が現れる。

「集合文化意識」に穴が穿たれた神代から千年後。少女と仙人は空に浮かぶ島で出会う。第26回電撃小説大賞銀賞受賞作。あとがきで作者が語るように、仙人や仏教やSFといった要素を、様々な造語とともにアレンジしてぶっこんだ王道バトルもの。現代の神怪小説というのかな。直接関連はないと思うのだけど個人的には「封神演義」を連想した。

ガジェットはごちゃごちゃしているけど話自体はかなり素直。SFプロパーの作家であれば「集合文化意識」についてもっと突っ込んで書いてくれたんじゃないかな。未整理なところや粗も多いけど、いろいろ伸びるところを感じる。そういうところも含めて嫌いにはなれないタイプの作品でした。