森日向 『浮遊世界のエアロノーツ 飛空船乗りと風使いの少女』 (電撃文庫)

じわりとフィンの目が潤み、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ始める。彼女は声を上げて泣き始めた。その声は蒸気でぼんやりとした青空に吸い込まれていく。

きっとずっと――それこそ何年も泣いたことがなかったのかもしれない。フィンの泣き方はどこか不器用で、ときどき息を詰まらせて咳き込んでいた。

空を浮遊する無数の《浮遊島》と雲海からなる世界。飛空船乗りの泊人と記憶喪失の少女アリアは、それぞれの求めるものを探して旅を続けていた。様々な文化や価値観を持つ島々をめぐる中で、アリアは《風使い》の能力を開花させてゆく。

この世界に大地はない。人と精霊が共存する島、まるごと監獄の島、スチームパンクな島、同じ時間を何度も繰り返す島。様々な浮遊島をめぐる中で少女は成長し、世界の成り立ちに近づいてゆく。「キノの旅」に近い雰囲気を感じるロードノベル。導入は比較的おとなしいのだけど、ひとつひとつの島に用意された仕掛けが一捻りあって面白い。世界の謎に近づくにつれて、尻上がりに面白くなってゆく印象を受けた。派手さは(今のところ)あまりないけど、楽しみなシリーズになりそうな予感はしております。