新馬場新 『十五光年より遠くない』 (ガガガ文庫)

明るくて、無遠慮で、感傷なんて許さない渋谷の街並みが、

途端に、黒く染まった。

2025年7月。観測史上最大規模の太陽嵐によって、日本列島は突然のインフラ停止と停電に見舞われる。その日、渋谷にいた元自衛官の星板陸は、初恋の人だった浅野水星に偶然出会う。水星を救うため、陸は水星の妹、金星とともに電気も通信も途絶えた暗闇の街を西へ進む。

「へぇ、小説も読むのか。どんなのが好きなんだ?」

「私は、『ハローサマー、グッドバイ』とか、『プロジェクト・ヘイルメアリー』とか」

「つまり、『たったひとつの冴えたやりかた』も好きだと」

「そう! よくわかったわね!」

突然の暗闇とオーロラに覆われた渋谷から始まるディザスターパニック。災害時の病院での患者対応やトリアージ、デマとパニックの拡散。今まで観たディザスター映画やSF小説の話をしながらの道中。物語の端々から、真摯な取材の跡と、映画やSFを愛するボンクラの矜持が垣間見える。

LOOK UP(顔を上げろ). STAR FALL(星が墜ちる).

登場人物の中で、子どもがひとりだけというのはライトノベルでは珍しいと言えるかな。その唯一にしてとても賢い子どもである金星から見たらパッとしない大人たちが、各々の大人にしかできない役割を果たす。みんな自分の理想からは遠くて、ヒーローと呼べそうな大人が誰一人いなくても、これだけのことがなし得るし、未来につなげることができるのだ、という。作者の小説は今年二冊目だったけど、いずれも年間ベスト級の傑作でした。SFという以外はまったくテイストの違う『沈没船で眠りたい』もあわせてどうぞ。



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