菊石まれほ 『ユア・フォルマIV 電索官エチカとペテルブルクの悪夢』 (電撃文庫)

分かっている。

そんなことでたやすくそそげる罪など、存在しない。

気休めだった。

でも、それでいい。

気休めがなくなってしまったら、もう息ができない。

――本当の呼吸なんて、生まれてから一度もしたことがないはずなのに。

電子犯罪捜査局を標的とした〈E〉事件。その首謀者、トスティの開発者は実在しない人物だった。引き続き捜査を続けるエチカとハロルド。そんな中、アミクスを狙う殺傷事件が発生する。それは二年半前、ハロルドの相棒が殺された連続殺人事件、「ペテルブルクの悪夢」の再演だった。

人間にもなれないくせに、人間に近づくというのは、とても中途半端でしんどい。

――そう。

もう、しんどいのだ。

模倣され、再演される「ペテルブルクの悪夢」。二年半前の始まりの事件とその後の現在を通じて描かれるのは、過去の贖罪と、各々の「人間らしさ」について。人間が考える人間らしさ、人間がAIに求める人間らしさ、AIが人間に提供する人間らしさ、AIが自らの敬愛規律から生むAIとしての人間らしさ……。人間を模倣する神経模倣(ニューロミメティック)システムであっても決して人間そのものにはなれない。人間であるエチカと、AIであるハロルドの葛藤と苦悩を両面から仔細に描いており、社会の変化と併せて多層的、立体的に世界を描いていると思う。それだけに、正しい答えはおそらく存在しないことわかってしまい、息苦しく、小さな希望が愛おしい。テキストも引き続き読みやすく、ちょっとした部分で違いをつけるのが非常に上手い。これこそ、現在進行形のSFだと思います。