あれほどの豊かさが、実は参加者の等質性によって支えられていたという認識は、わたしの世界を底からひっくり返した。あの心地よさの根底にあったのは、差異を受け入れる包容力ではなく、たんに同族の安心感だった。
近未来の多民族国家、ルーツがばらばらの子どもたちの前に自ら歩いてやってきたスパム「二本の足で」。核で滅んだ世界の子どもたちを描くFallout風ポストアポカリプス小説、「トーキョーを食べて育った」。医学の発展でネコが長生きできるようになった社会は誰かを幸せにしたのか「おうち」。AIの発達とともに生き、居場所を失った芸術家の生き方を語る「再突入」。多様性を持った社会を形作るためには、人権と人間性が衝突する「天国にも雨は降る」。端のない世界をそのまま描いた小説? 「夕暮にゆうくりなき声満ちて風」。とりとめのない奇想をつなげるでもなく並べた二人称小説「あなたは月面に倒れている」。落ちては消える生首をめぐる「生首」。まるで短編集のアウトロとして用意されたかのような静かな一本、「あかるかれエレクトロ」。
作者自身のツイートを種に生まれたという九つの短編を収録した短編集。現代的な問題意識があり風刺的でもあり、それでいてたれ流し的な奇想にとりとめがなくそれらが入り混じっているのがTwitter的といえるか。後半に進むに連れてよりTwitterになっているのは意図的なのかな。「二本の足で」、「おうち」の二編が個人的ベスト。とても良い短編集でした。
百万年ほどが過ぎ、ツイッターを覚えている人はいなくなりました。自転車や人類の姿もそうそう目にすることはなくなりました。けれど、宇宙に漂ういくつかの石粒にその痕跡を見つけることができるかもしれません。