東崎惟子 『クリムヒルトとブリュンヒルド』 (電撃文庫)

その後、クリムヒルトは暗君の誹りを受けながら王国の統治を行うことになる。

彼女は生涯をかけて、王国の繁栄に尽くしたがその慈しみが民に伝わることはなかった。

王国にクリムヒルトの名を冠する女王は二度と現れなかった。

その名は稀代の暗君を意味しており、縁起が悪いとされたのだ。

彼女の不名誉は死ぬまで、否、死んだあとですら払拭されたことはなかったのである。

「竜殺しの女王」が民に仇なす神竜を葬ってから百年。繁栄を続けていた王国の四代女王の次女、クリムヒルトは戴冠の日を迎えようとしていた。病に冒された姉、ブリュンヒルドの分まで想いを背負い、クリムヒルトは玉座の間に入る。そこには王国最大の闇があった。

竜殺しの天才。

だとしたら、天才というものは思っていたよりも大したものではないらしい。

ただ竜を殺せただけで、村の一つも守れないのならば。

竜とブリュンヒルドの物語、第三部。王国史から名を消された暗愚の女王クリムヒルトと、「神の力」に蝕まれ王位継承権を失ったブリュンヒルドの物語。……と思って読んでいるとなにか違和感があるのだけど、あとがきを読んで、さらに序章を読み返して、ようやく腑に落ちた。とある欺瞞を、トリックでも仕掛けでもない、言ってしまえば作者のわがままで書いた本。デビュー三作のうちではかなり癖の強い物語になっていたと同時に、作者自身が濃厚に出た巻になっていたと感じた。

やはり、ファンタジーというよりは、遠い昔の神話やおとぎ話を読む感覚に近かったのだけど、時間とともに竜の神性が失われる物語でもあり、そういう意味では神話から離れつつある第三部だったのかな。竜と竜殺しの物語、ぜひ一作目から読んでみてもらいたい。



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