東崎惟子 『竜の姫ブリュンヒルド』 (電源文庫)

『ありがとうございます……』

ブリュンヒルドは涙を流した。竜はそれを感謝の涙と理解して微笑んだが、違う。

悔し涙だった。

邪竜の侵略に脅かされ、神竜の庇護の下にある小国ノーヴェルラント。竜の言葉を解する家系に生まれたブリュンヒルドは、巫女として竜に仕えていた。

神の竜は、人々を庇護する見返りとして巫女より供物を捧げられていた。『竜殺しのブリュンヒルド』の別の時間の出来事を描いたデビュー第二作。「竜殺し~」と同様、ファンタジーというよりは、おとぎ話か神話に印象は近い。ブリュンヒルドを始め、主となる四人のひとりひとりに光を当てながら、群像劇風にヒトの世界の物語を描いていた、のだと思う。ひとの心を理解できなかったが故に、愛や正義に幻想を抱いたという、とある登場人物が個人的にとても印象に強く残った。

前巻が見事に完結していただけに、あとがきで語っている苦労の跡は確かにはっきり見えるんだけど、同時に「竜殺し~」を十日で書いたということのほうがおかしいのではなかろうか。とても良い作品でした。



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