枯野瑛 『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?#10』 (スニーカー文庫)

とん、と地を蹴って――直上の空へと、墜ちるようにして、飛ぶ。

「…………ッ」

高いところは、好きじゃない。怪我をした時のことを、大事な人たちに悲しい顔をさせた時のことを、思い出すから。

けれど今は、今だけは、そんな事は言っていられない。今ここで自分が飛ばなければ、眼下の彼らは悲しい顔すらできなくなるのかもしれないのだから。

「うあああああ!」

叫ぶ。

浮遊大陸群(レグル・エレ)を救う最後の戦いが始まった。2番浮遊島を取り込み、沈黙を続ける〈いずれ訪れる最後の獣〉(ヘリティエ)に突入した5人の黄金妖精(レプラカーン)は、500年以上前に消えたはずの世界を見る。

500年前の、一度目の終わりの記憶でつくられた楽園にして、劇場のようなつくりものの世界。この世界の征く道を、決めるべき時が来る。時間も場所もばらばらに分かたれた5人の妖精兵の視点から描かれる最終章・前編。思った以上に長く続いた「終末」も、いよいよ本当に終わるらしい。世界のはじまりと終わりを、キャラクターが体感していく構成は、わりとありそうで意外となかった印象。次でラスト、楽しみにしています。

伊崎喬助 『董白伝 ~魔王令嬢から始める三国志~4』 (ガガガ文庫)

「この蹄の音、忘れようがない」

それまでうっすら聞こえていた音が蹄の音だと、趙雲もようやく気づいた。想像すらしなかった。こんな地鳴りじみた蹄音を立てられる馬がこの世にいようなど。

赤い馬影が、崖の上に躍り上がる。

馬の形は遠近感を疑うほどに大きく、その背には一人の武者を乗せていた。手にした武器は、方天画戟。

曹操に拉致され、許昌へと連れてこられた董白。そこに現れたのは、白い虎にまたがった孫家の娘、孫尚香だった。董白を連れ出した孫尚香は、袁術と呂布が手を組んだ「長江同盟」に協力した孫堅を手伝わせようとする。

孫堅の樊城攻略。天下無双、呂布。本来の歴史とは違った形となった三国鼎立を描く、シリーズ四巻。今回も面白かった。素材の活かし方が抜群にうまい、というべきなのかな。三国志という題材があるとはいえ、英傑の個性が異様に立っている。戦場でも政治の場でも、英傑がそれぞれに持つ迫力を描いていて、一筋縄ではいかない。安定して楽しみなシリーズのひとつになりました。

ツカサ 『明日の世界で星は煌めく3』 (ガガガ文庫)

「貫け」

空気を裂く音と共に、加速された石が撃ち放たれた。

ドバッと赤く弾ける屍人の頭。

これまで何度も見た光景。グロテスクで現実味のない惨劇。

――人間は嫌い。

でも、だからって殺したいわけじゃなかった。死んで欲しい人たちは大勢いたけど、大嫌いな人のために自分の手を汚すなんて割りに合わない。

京都から東京へ。終末の原因が帆乃夏の姉、春香にある可能性を知った由貴たちは、日本魔術師連盟本部へと向かう。

終末を迎えた世界で、ひとつの恋が終わった。ポストアポカリプス・ゾンビ・百合・サバイバルロードノベル、完結。テーマゆえか、いろいろあったはずなのに、淡々と終わった印象が強い。何かを始めるためではなく、静かに終わらせて、続けるための物語、というかな。食い足りないといえば食い足りないし、これでいいのだといえばこれでいい。何を求めて読むかで、評価が大きく変わりそうな小説だと思います。

呂暇郁夫 『楽園殺し 鏡のなかの少女』 (ガガガ文庫)

完璧を目指しなさい。

淀みのない白。

あるいは何にも染まらない黒のように。

はるか昔、この世界は砂塵に覆われた。人類に毒と異能ともたらした砂塵は世界を大いに荒廃させ、わずかに残された楽園たる偉大都市は様々な人間と社会が集まっていた。偉大都市を取り締まる中央連盟は、〈粛清官〉のシルヴィ・バレトとシン・チウミのふたりに、ひとを獣に変貌させるというドラッグの捜査を命じる。

砂塵の舞う偉大都市で、ふたりの粛清官はそれぞれの思惑を胸に過去と向き合う。銃弾と血煙と砂塵が舞う、バイオレンスアクション小説。砂塵にまみれ荒廃した世界、マスクをまとう復讐の物語。タイトルからはわからなかったけど、デビュー作『リベンジャーズ・ハイ』とそのまま地続きの物語なのね。軽快なアクションはさくさく読めるけど、ストーリーも現時点では相応に軽く見える。後編でどういう風に転ぶかな。



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ピーター・トライアス/中原尚哉訳 『サイバー・ショーグン・レボリューション』 (ハヤカワ文庫SF)

「貴様の父上からよく言われた。味方の味方は味方、味方の敵は敵、敵の敵は味方。しかし、ときには味方が敵になることもある」

「俺には味方も友人もいません」

「いいことだ」

第二次大戦以来、日本とドイツに分割統治されるアメリカ。〈戦争の息子たち〉による革命の成功が、事件の始まりだった。

腐敗政権の打倒を目指す秘密組織〈戦争の息子たち〉のメカパイロット守川励子。特高警察課員、若名ビショップ。日本合衆国に牙を剥いた伝説のナチスキラー、ブラディマリー。三者をめぐって繰り広げる、『ユナイテッド・ステイツ・ジャパン』、『メカ・サムライ・エンパイア』に続く改変歴史SF三部作の完結篇。今回はサスペンス小説の風味が特に強かった気がする。ときどき挟まれる日本合衆国のサイケデリックな光景は楽しかったけど、ストーリーはちょっと冗長だったかもしれない。一作目のインパクトを超えられなかったなあ、というのが正直な気持ちです。



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