池田明季哉 『アオハルデビル』 (電撃文庫)

だとしたら。

青春は罪なのだろうか。

ある日の夜。忘れたスマホを取りに学校に忍び込んだ在原有葉は、同級生の伊藤衣緒花が屋上で燃え上がる姿を目撃する。有葉を脅して強引に口止めする衣緒花は、「悪魔」を惹きつけていた。

その夜、僕の青春は炎とともに産声をあげた。元VOGUE編集長の言葉をエピグラフから始まる、「悪魔」に憑かれた「青春」の物語。モデルとして活躍する重圧と、自分で選んだ厳しく恐ろしい「青春」と、自分でも気づいていなかった理想の「青春」と。ファッションや音楽に対する強いこだわりを感じさせるストーリーは、不思議なリアリティラインを保ったまま進んでゆく。リズムのあるテキストでサクッと読めるけど、意外とちゃんと飲み込むのが難しいタイプの青春小説だと思う。

駒居未鳥 『アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班』 (電撃文庫)

「人格を設定されていないから余計に、あの子はあなたが自覚してないレベルの要求にまで、対応しようとするかもしれないの。あくまで例えばだけど、あなたが彼女を挑発して、攻撃に対する正当防衛として彼女を破壊しようとした時、あなたの内心に自殺願望があったら、あの子は容赦なくあなたを殺すわ。だからこうして、二人だけの時に話してるのよ」

大陸戦争の終戦から数年。かつて兵士として従軍していたテオは、妹を殺した自律型魔導兵器(オートマトン・アーツ)アマルガムの行方を探すため、捜査局刑事部に所属していた。ある日、アマルガムの技術によって生み出された人型自律兵器、イレブンが配備され特捜班が結成されることになる。

「アマルガムに、感情はありません。それらしく振る舞うことはできても、模倣の域を出ない。愛も、憎しみも、死を迎える存在の間で生まれるものです。私たちには、存在し得ない」

第28回電撃小説大賞選考委員奨励賞受賞のクライムアクション。帯コメントを寄せた菊石まれほ「ユア・フォルマ」と似ているようで、あらゆる点が対照的なのが面白い。片や男性主人公と少女型兵器、片や女性主人公と成人男性型アンドロイド。片やチームもの、片や二人きりの秘密を共有するバディもの。片や科学と魔術が手を結んだ架空の世界、片や実在の国や都市を使った世界。片やヒトそのもので感情のない兵器、片やヒトそのもので感情豊かな捜査官。

少女の姿をした感情を持たない兵器イレブンに、死んだ妹の姿を重ね複雑な想いを抱くテオ。研究者としての立場を保ちつつイレブンに少女そのもののように接するエマ。最年長の立場からチーム全員を見るトビアス。チームものだからこそ描ける多面的な物語を描いていて好感が持てた。犯罪コンサルタントに指揮されたテロ、戦争から復興中の都市の光と闇、アクションの描写も良い。このあたりの描写は冲方丁を彷彿とさせるものがあった。「魔術と科学」からファンタジーを想像して手に取ったけど、硬派でエンターテイメントな刑事ものだった。良かったです。二巻も買ったので楽しみに追いかけていきたいと思います。



kanadai.hatenablog.jp

周藤蓮 『明日の罪人と無人島の教室2』 (電撃文庫)

結局、疑問はそこに帰結する。

「湯治、お前はどうして未来で人を殺す?」

そして、僕はそれに答える言葉を持たない。

現実規程関数から導き出された「明日の罪人」たちを集めた鉄窓島プロジェクト。その開始から一ヶ月。「必ず未来で罪を犯す」という命題の矛盾に気付いた湯治夕日は、全員での脱出に向けて行動を起こす。

SFミステリの色がさらに強くなった第二巻。学校を模したプロジェクト。その裏にある意図、「特別授業」、そしてそれぞれの生徒たちはどのように行動するのか。少しだけ技術が発達した未来が舞台で、この世界のテクノロジーには何ができ、人間に、社会に、どのような影響を及ぼすか。孤島が舞台のはずなのに、あまりに語られるものが多くて何から言えばいいのか。

「そうなる」に至る行動や理屈、その裏にある意思を事細かに拾っていく手つきがとてもよい。多少(?)の反則技があった気がしないでもないけど、そこも含めてこの物語なのであろう。こういうのも信頼できない語り手、と言っていいのかな。作者も信頼できないというか、まだまだ伏せられたカードは多そう。何がどうなって、どこに着地するのか。引き続き追っていきます。

この島にきて、みんなは自分の異常性を知ったのだという。

自分がどうして未来で罪を犯すかを知るのは、自らの理解を深め、自らの異常性を知り、その克服へと乗り出していくことなのだという。

でも、私は逆だった。

この島にきてからというもの、私は自分が普通だと思い知らされてばかりだ。



kanadai.hatenablog.jp

『Genesis この光が落ちないように 創元日本SFアンソロジーV』 (東京創元社)

八島游舷「天駆せよ法勝寺[長編版]序章 応信せよ尊勝寺」は、第9回創元SF短編賞受賞作の長編版のプロローグ、つまりタイトル通り。物理学ならぬ佛理学パンク。「天駆せよ」はあまりピンとこなかったのだけど、これは素直に楽しかった。長編版を楽しみに待ちます。

宮澤伊織「ときときチャンネル#3 【家の外なくしてみた】」。これも百合SFになるのかしら。もう手慣れたもの、良くも悪くもすっと入ってくる。

表題作は菊石まれほ「この光が落ちないように」。もともとハードめのSFでデビューした作者だけあって描くべきものは描いていると思うけど、初短編だけあってかちょっと詰め込み気味だとは思った。こちらも長編で読みたいな。

このことは案外真実を言い当てていたのかも知れない。AIに苦手なこと、というより欠けているのは身体性なのだ。AIは音楽演奏を、食事も水も取らず、休憩なしで何時間もぶっ続けでこなすが、そこに感動はない。身体性のない音楽は退屈なのだ。

星から来た宴

水見稜「星から来た宴」。宇宙からの電波を言語的、あるいは音楽的に解析するミッションの最中に起こった出来事を描く。水見稜を読んだのは初めてだったのだけど、第一印象が「文章が美しい……」だった。「宇宙に進出した人類と音楽」がテーマにあるとのことで、静と動、無音と音楽を、端正な言葉で描いていると感じた。

「考えちゃいるけど、“意味”なんてないよ。ただ、カワイイと思うからやってるだけ。カワイイアタシになるためにそうしてるだけ」

さよならも言えない

服装や身なりを数値化した上で社会的スコアとして運用するようになった社会。システムを運用していた女性は、スコアをまったく気にしない少女に出会う。空木春宵「さよならも言えない」は個人的には今回のベストだった。典型的なディストピア小説ではあるのだけど、現代的な問題意識と、分かりあうことのできない絶望感みたいなものががっちり噛み合ってこれ以上ない物悲しい気持ちにさせられた。タイトルの意味がわかってしまった瞬間の感覚はそうそう味わえないよ……

巻末は第13回創元SF短編賞受賞作、笹原千波「風になるにはまだ」。身体を捨てて情報生命体になった女性が、かつての友人たちと再会するために一日だけ身体を借りる。生地の手触り、嗅覚といった「身体性」を、身体を捨てた人間を通して語るのが新鮮に感じた。電脳化して得られるものもあるけれど、失われるものもあまりにも多い。現代SFだからこそ理解できる部分、なのかもしれない。

赤城大空 『淫魔追放2 ~変態ギフトを授かったせいで王都を追われるも、女の子と“仲良く”するだけで超絶レベルアップ~』 (ガガガ文庫)

「亀頭が、二本……!?」

ロックタートルの巨大な身体から、二本目の頭が生えていた。

……いや、形はそっくりだが、アレは頭じゃない。

後ろ足の間から生えていることといい、先端に発射口らしき穴があることといい、アレは――生殖器だ。

〈淫魔〉のギフトを授かってしまったために街を追放されたエリオは、スキルを解除する方法を求め、幼馴染みのアリシアとともに旅を続けていた。思惑とは裏腹に、幾度も繰り返す「仲良し」によって次々に変態スキルに目覚めるエリオの明日はどっちだ。

稀に見る疾走感の「前回までのあらすじ」から始まる、「卑猥な英雄物語」の第二巻。一巻に引き続き、男根に対するアイデアが惜しみなく発揮されていた。頻出する男根に、「男根」がゲシュタルト崩壊しそうになった。男根対亀頭だの、ランドタートルだけに亀頭が二本だの、思いつきそうでそうは思いつかないし、思いついてもやろうとは思わないんだよね。良かったです。このくだらなさを持ったまま、突き抜けてほしいと願わずにはいられない。



kanadai.hatenablog.jp